NASAの有人宇宙船オリオンが、4月2日(日本時間)午前7時24分に月へ向けて打ち上げられる予定だ。人類が月の近くまで到達するのは、1972年のアポロ17号以来54年ぶりとなる。今回のミッション「アルテミスII」は月面着陸ではなく、月の近傍を通過して地球へ戻る10日間の飛行テストだ。人が乗った状態でロケットと宇宙船が正常に機能するかを確認することが主な目的で、これが成功すれば、2028年に予定されている有人月面着陸へ向けた準備が本格的に動き出す。
10日間のミッションで何が行われるか
打ち上げ後、オリオン宇宙船はまず地球を周回する軌道に投入され、搭載システムの動作確認を行う。その後エンジンを噴射して月へ向けた軌道に移行し、約5日かけて月に接近する。月の裏側まで回り込んだ後に地球へ向けて帰還し、残りの約4日で地球に戻るルートだ。アポロ計画では月を周回する軌道に入ったが、アルテミスIIは月を通過するだけの「フライバイ」であり、より短時間で地球へ帰還するシンプルなルートが選ばれている。ミッション中に宇宙飛行士が月面に降りることはなく、あくまで「人が乗った状態で宇宙船と地球の往復が成立するか」を確かめることが目的だ。また、ミッション中には宇宙飛行士が手動でオリオン宇宙船を操縦するテストも行われる予定で、緊急時に宇宙飛行士自身が宇宙船を制御できるかを検証する重要な工程となっている。
乗り込む4人
搭乗するのはNASAのリード・ワイズマン、ビクター・グローバー、クリスティーナ・コック、カナダ宇宙庁のジェレミー・ハンセンの4人だ。この顔ぶれは、アポロ計画との対比で語られることが多い。月を歩いた12人がすべて白人男性だったのに対し、今回は女性と黒人、そしてアメリカ人以外の宇宙飛行士が初めて月近傍へ向かう。クリスティーナ・コックは2019年から328日間ISSに滞在し、女性だけによる船外活動も行った実績を持つ。月の近くまで飛行する女性宇宙飛行士は、人類史上初となる。カナダ人のジェレミー・ハンセンは戦闘機パイロット出身で、今回が初めての宇宙飛行だ。アメリカ人以外の宇宙飛行士が月近傍に到達するのも、これが初めてになる。
前回の無人飛行で見つかった問題と、今回の対策
アルテミスIIを理解するうえで欠かせないのが、2022年に実施された無人テスト飛行「アルテミスI」での出来事だ。アルテミスIはSLSロケットとオリオン宇宙船の初飛行として約25日間のミッションを成功させたが、帰還時に深刻な問題が発覚した。大気圏再突入の際、オリオン宇宙船の底面を覆う耐熱シールドが想定をはるかに超える損傷を受けており、炭化した素材の大きな破片が剥離していたのだ。調査の結果、原因は耐熱シールド内部にガスが蓄積し、再突入時の熱と圧力でそれが一気に膨張したことにあると判明した。もし宇宙飛行士が乗っていれば、帰還時の安全性に関わる重大な問題になり得るものだった。NASAはこの問題への対策として、アルテミスIIではより急角度で大気圏に突入する飛行プロファイルに変更した。急角度で突入することで大気との摩擦時間を短縮し、内部へのガス蓄積を抑えられると見込まれている。ただし急角度の突入は宇宙飛行士にかかる加速度(G)が増すという別のリスクも伴う。人が乗った状態でこの新しい飛行プロファイルが実際に機能するかどうかは、今回のミッションで初めて実証されることになる。
一度延期された経緯と現状
今回の打ち上げは一度延期されている。今年2月、ロケット上段部分のヘリウム充填システムに問題が見つかり、発射台に据え付けられていたSLSロケットをいったん組立棟へ戻す作業が必要になった。ヘリウムはロケットの燃料タンク内の圧力を管理するために不可欠なガスで、この系統に問題が生じると打ち上げそのものが成立しない。問題が解決された後の3月12日、NASAは飛行準備審査を完了し、全チームが「進行」の判断を下した。現在ロケットはケネディ宇宙センターの発射台に再び据え付けられており、4月2日の打ち上げに向けた最終準備が進んでいる。延期や技術的なトラブルを乗り越えてここまで辿り着いたこのミッションは、人類が再び月へ向かう時代の幕開けを告げる、紛れもない歴史的な一歩だ。

