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アルテミスIIを月へ送り出したロケット「SLS」とは スペースシャトルの遺産と巨大プロジェクトの全貌

2026-04-03
アルテミスIIを月へ送り出したロケット「SLS」とは スペースシャトルの遺産と巨大プロジェクトの全貌

昨日(4月2日)、アルテミスIIを月へ送り出したロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」。全長98メートル、重量2600トンという巨体が轟音とともに飛び立つ姿は世界中に生中継されたが、このロケットがどういう仕組みで、誰が作り、どんな歴史を持つのかは意外と知られていない。今回はSLSロケットを解説する。

スペースシャトルのDNAを受け継ぐロケット

画像 SLSの最大の特徴は、スペースシャトル時代の技術と部品を大量に流用している点だ。 中心となるコアステージ(第1段)は、スペースシャトルの外部燃料タンクをベースに設計されており、直径は同じ8.4メートルだ。このコアステージには液体水素タンクと液体酸素タンクが格納されており、液体水素はマイナス252度、液体酸素はマイナス183度という超低温状態で保管される。SLSはこの大量の燃料を約8分間で使い切り、宇宙空間へ飛び出す。 画像 コアステージに搭載されているのは「RS-25」と呼ばれる4基のエンジンだ。RS-25はスペースシャトルで実際に使用され、回収・整備されたものが流用されており、液体水素と液体酸素を推進剤とする高性能エンジンの傑作とされている。 ただし大きく異なる点がある。スペースシャトルではエンジンを回収して再利用していたが、SLSでは打ち上げごとに1回限りで廃棄される。 レジェンド級のエンジンを使い捨てにするというのは、コスト面でも大きな問題として批判されてきた点だ。

コアステージの両脇には2本の固体ロケットブースター(SRB)が装着されている。高さ54メートル、ビル17階分に相当するこのブースターは毎秒6トンの燃料を消費する。スペースシャトルで使われたブースターを改良したもので、打ち上げ後約2分で分離され海上に落下する。

3社が分担して製造する巨大プロジェクト

SLSは複数の巨大防衛・宇宙企業が分担して製造している。 コアステージはボーイングが製造した。固体ロケットブースターはノースロップ・グラマンがスペースシャトル用を改良して製造している。 そしてオリオン宇宙船本体はロッキード・マーティンが開発・製造を担当しており、アメリカの主要防衛企業3社がそれぞれの強みを活かして分担する巨大プロジェクトとなっている。

この構造は「既存の大手契約企業に仕事を保証するための設計だ」という批判も根強く、SLSの反対派はこのロケットを「議会・ローンチ・システム」と皮肉交じりに呼んでいる。2021年にはNASAの監察官が「ロケットの総コストは2025年までに270億ドルに達する」とSLS計画を批判した際にもこの表現が使用された。 現在のNASA長官ジャレッド・アイザックマン氏も、もともとSLSに批判的な立場に近い人物だ。SpaceXの宇宙飛行士として民間宇宙開発に深く関わってきた実業家で、民間ロケットの積極活用を支持する姿勢を持つ。就任後は「当面はSLSを支持する」と発言しているが、今後の計画見直しにその姿勢がどう影響するかは注目される。

サターンVを超えるスペックと複数のバージョン

SLSブロック1の全長は98メートルで日本のH3ロケットの約2倍、重量は燃料込みで2600トン。打ち上げ能力は地球周回低軌道に95トン、月遷移軌道に27トンだ。 アポロ計画で月へ人類を届けた「サターンV」に匹敵する、あるいはそれを超える打ち上げ能力を持つ。 SLSはミッションの要求に応じた複数のバージョンが計画されている。今回のアルテミスIIで使われたのは初期型の「ブロック1」だ。アルテミスIV以降では第2段が新型の「EUS(探査アッパーステージ)」に換装される「ブロック1B」へ移行し、月への輸送能力が38トン以上に向上する。 さらに将来的な火星探査を見据えた最終形態「ブロック2」では固体ロケットブースターも新型に換装され、46トン以上の輸送能力を持つ計画だ。 ただしコストも桁違いだ。1回の打ち上げでおおよそ41億ドル(約6500億円)かかるとされる。 SpaceXのファルコン9が1回数十億円で打ち上げられることを考えると、その差は圧倒的だ。こうした高コスト体質がSLSの将来に疑問符をつけている。

SLSの今後

アルテミスIIIまではブロック1が使用される予定だが、長期的な未来は不透明だ。NASAは予算削減の中でより安価な民間ロケットへの移行を検討しており、アルテミスVI以降は民間ロケットの活用が検討されている。SpaceXのStarshipが実用化されれば、SLSの役割は大幅に縮小する可能性がある。 昨日の打ち上げは、このレジェンド級ロケットが主役として活躍できる数少ない機会の一つかもしれない。

参考文献

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