昨日(4月3日)の朝8時49分、オリオン宇宙船のエンジンが約6分間噴射された。その瞬間、4名の宇宙飛行士は地球の重力圏を静かに離れ、月へ向かう軌道に乗った。 これをTLI(月遷移軌道投入 / Trans-Lunar Injection)と呼ぶ。1972年のアポロ17号以来、53年ぶりに人間がこの瞬間を体験した。
TLIとは何か
TLIは宇宙船を「地球を周回する軌道」から「月に届く軌道」へ押し出すための噴射だ。わずか6分間エンジンを燃やすだけで、宇宙船の速度が大幅に変化し、そのまま月まで届く軌道に乗る。 今回採用されたのは自由帰還軌道と呼ばれる特殊なルートだ。月の重力を利用してUターンし、エンジンを噴射しなくても自然に地球へ戻ってこられる設計になっている。万一システムに異常が起きても宇宙飛行士が生還できる「保険」がかかった飛行ルートだ。アポロ計画でも使われた、実績ある安全設計である。
飛行3日目の現在
4月4日19時時点でのオリオンの位置
本日4月4日、オリオン宇宙船は地球から数十万kmの深宇宙を巡航中だ。速度は月の重力に引き寄せられながら徐々に変化しており、日に日に月が近づいている。 今日は軌道を微調整する軌道修正噴射が実施される見込みで、月への最接近に向けた精密な照準合わせが行われる。また宇宙空間での心肺蘇生法のデモンストレーションや医療キットの確認作業も予定されており、将来の長期宇宙飛行に備えた医療対応能力の検証も進む。 現在地はNASAが公開しているリアルタイムトラッカーで誰でも確認できる。
53年ぶりに人間の目が捉えた地球
飛行中、クルーが船内から撮影した地球の写真が公開された。
宇宙から見る地球は、いつの時代も人の心を揺さぶる。アポロ計画で撮影された「ブルーマーブル」は、環境意識を世界に広めたとまで言われる一枚だ。今回の写真も、数十万kmという距離から撮影されたもので、大気の青みや雲の白さが宇宙の漆黒に浮かび上がる。
ISSから撮影された地球写真とは、距離感がまったく違う。ISSは高度約400kmを飛ぶため地球は大きく近く見えるが、アルテミスIIのクルーは現在その数百倍の距離にいる。地球全体が小さな円として視野に収まり始める距離だ。船長のワイズマンはかつて「人類がこれまで目にしたことのない光景を見ることになる可能性が非常に高い」と語っていたが、その言葉通りの瞬間が訪れている。 この写真は、単なる記念撮影ではない。宇宙飛行士が深宇宙から地球を眺める——その行為そのものが、半世紀ぶりに人類が再び遠い宇宙へ踏み出した証拠だ。
次のハイライト——月の裏側で50分間、地球と通信が途絶える
ミッションの山場は数日後に訪れる。オリオン宇宙船が月の裏側を通過する瞬間、月が電波をすべてさえぎるため、クルーは地球との通信が約50分間途絶える。 アポロ計画の宇宙飛行士たちもこの「無線の暗闇」を経験したが、人間がこの瞬間を体験するのは半世紀ぶりだ。 また、今回のミッションでは人類史上最も地球から遠い場所への到達記録が更新される可能性がある。アポロ13号が1970年に記録した40万171kmを上回り、約40万6,800kmに達する見込みだ。
参考文献
- NASA Artemis II Mission Updates
- sorae.info「アルテミスII、月へ向かう軌道投入成功」
- アストロアーツ「半世紀ぶりの有人月ミッション、打ち上げ成功」
- WIRED.jp「月の裏側へ向かう『アルテミスII』──人類史上もっとも遠い飛行」

