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ロケット

元ICBMが宇宙へ——Minotaur IVが軍事衛星群を打ち上げ

2026-04-08
元ICBMが宇宙へ——Minotaur IVが軍事衛星群を打ち上げ

冷戦時代にアメリカが配備した核ミサイル「ピースキーパー」が、今も現役で宇宙を飛んでいる。4月7日午前4時33分(現地時間)、そのロケットモーターを転用した「Minotaur IV(ミノタウロスIV)」が、カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地のSLC-8から打ち上げられた。ミッション名はSTP-S29A。米国防総省の宇宙技術実証プログラムとして、軍事通信や軌道デブリ検出など複数の実験装置を低軌道に投入し、打ち上げは成功した。

核ミサイルがロケットに転生するまで

画像ミノタウロスIV(左)とピースキーパー(右)

Minotaur IVの出自は異色だ。このロケットの第1〜第3段は、冷戦期に配備されたICBM「LGM-118 ピースキーパー」の固体燃料モーターをそのまま流用している。

ピースキーパーは1985年から2005年まで配備された、アメリカが保有した最後の大型ICBMだ。1発で最大10個の核弾頭を搭載し、それぞれ独立した目標へ投下できる「MIRV(多弾頭独立目標再突入体)」方式を採用。冷戦期の核抑止戦略の中核を担った兵器だった。冷戦終結後はSTART II条約に基づき2005年までに全機が退役したが、固体燃料ロケットモーターは使用可能な状態で大量に残った。

これを廃棄するのではなく宇宙打ち上げに転用したのが旧オービタル・サイエンシズ社(現ノースロップ・グラマン)だ。米空軍の「軌道・準軌道プログラム(OSP)」のもとで開発が進み、2010年4月22日に初飛行を果たした。今回のSTP-S29Aは軌道投入ミッションとして通算7回目の飛行となる。

ロケットの構造と特性

画像ミノタウロスファミリーとミノタウロスIVの分解図

Minotaur IVは全4段構成の固体燃料ロケットで、全高約24メートル、打ち上げ時重量は約86トン。第1段のSR-118モーターは燃焼時間56.6秒で約2,224キロニュートンの推力を発生させ、第2段(SR-119)、第3段(SR-120)と続く。第4段だけは商業モーター「Orion-38」を採用しており、空中発射ロケット「ペガサス」でも実績のある信頼性の高い段だ。低軌道への打ち上げ能力は最大約1,735キログラムだ。

全段固体燃料のため燃料充填が不要で、準備時間が短く即応性が高いのが特徴だ。液体燃料ロケットは打ち上げ直前に燃料を充填する必要があるが、固体燃料は保管状態のまま発射できる。軍事用途での即応性を重視した設計思想が色濃く反映されている。

重要な制約として、ピースキーパーのモーターは米政府が払い下げた「政府支給品(GFE)」のため、Minotaur IVで打ち上げられるペイロードは米政府ミッションに限定される。民間衛星は搭載できない。その代わりに政府支給モーターによりコストは大幅に抑えられ、今回のミッション総額は約2,990万ドルと商業打ち上げと比べて競争力のある水準を実現している。

今回のミッション:STP-S29A

今回のメインペイロードは「STPSat-7」だ。イージス・エアロスペース社が開発したESPAクラスの衛星で、5種類の軍事技術実証装置を搭載して自由飛行する。ミッションを発注したSTP(Space Test Program)は米国防総省が50年以上運営する宇宙技術実証プログラムで、軍や研究機関が開発した先端技術を低コストで実際の軌道上で検証することを目的としている。

デブリ検出:LARADO

最も注目されるのがLARADO(Laser-sheet Anomaly Resolution and Debris Observation)だ。米海軍研究所がNASAの協力のもと開発したこの装置は、レーザーシートを使って直径3センチ未満の微小デブリを軌道上から直接検出することを目標とする。

現在の地上レーダーではこのサイズのデブリは追跡できておらず、その数や分布は推定に頼るしかない状態だ。宇宙機にとって「見えない脅威」となっているこの微小デブリの実態を、LARADOが初めて軌道上から把握できるようにする可能性がある。

衛星通信実証:NanoUHFComms

低軌道(LEO)から軍用衛星通信(SATCOM)能力を実証する実験だ。メッセージブロードキャストや水平線を越えた拠点間通信、オンボードでのドップラー補正技術を検証する。将来の宇宙空間に分散配置された通信衛星群アーキテクチャへの応用を見据えた研究だ。

その他の搭載装置

装置名 目的
GARI-1C 次世代ガンマ線センサーの宇宙適格性を確認する防衛向け装置
GOSAS 電離層のGNSS環境を計測し、GPS・軍事レーダーへの影響を予測
SFPE 衛星へのなりすまし・不正アクセスを防ぐセキュリティ手法の実証

STPSat-7のほか、テキサスA&M大学のAggieSat6(軌道上から衛星を追跡するSDA実証)やオーバーン大学のASTRA-HyRAX(分散アパーチャ撮像の実証)など9機のキューブサットも相乗りしている。

参考

  • NASASpaceFlight – Launch Preview: Falcon 9 to loft Cygnus to ISS, Minotaur IV to launch from California(2026/4/6)
  • KEYT – A Minotaur IV launch of Space Test Program's S29A mission scheduled for early Tuesday(2026/4/6)
  • MilitarySpot – Navy Launches Three Advanced Payloads Into Space(2026/4/7)
  • Edhat – Minotaur IV Launches STP-S29A Mission from Vandenberg(2026/4/7)
  • Wikipedia – Minotaur IV
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